十郎は、芳雄をちらりと見て、
「例えば、おまえとおれの着物が共に藍染めであるとかな」
「……それに、何か意味があるのか」
「何も、口にすること全てに意味が無くては成らない事は無いさ」
芳雄は、一言短く「そうか」と呟いたきり、他には何も言わなかった。
十郎は、そしてつと立ち止まった。芳雄が、数歩先で振り返る。
「十郎?」
「ヨシよ」
十郎は、芳雄の言葉を遮って、言った。
「……ヨシよ。おれは、奇遇だろうがそうでなかろうが構わないんだよ」
「……」
「おまえに出会ったのはおれで、おれに出会ったのはおまえで、
あの日に他に誰も居なくて、風が強かった」
「……」
「なあ、おまえ。
あの瞬間に、おれ達はおれ達以外の何を見れば良かったんだろうなあ。
何を見て居たら、今が変わったのだろう」
「……十郎」
「きっと、何も変わらなかったさ」
自問に自答するようにそう言い切って、十郎は目を伏せた。
そして、まるで涙を耐える如くに堅く目を閉じて、
再び開いた瞳には、不可思議な影と光が共存して居るようだった。
そして矢張り、十郎は笑わなかった。
つづく
※2000年3月 執筆
(2007年2月22日発行 個人誌より転載)
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